レシピとブログ
6.182015
自家製ピクルスを4ヶ月日持ち保存させる5つのポイント
このレシピのみんなの評価
「ピクルスは長期保存ができる食べ物」こういうイメージを持たれている方は多いのではないでしょうか?
事実、ピクルスは1年でも2年でも保存は出来ます。しかし、それはきちんとした殺菌方法を施して保存をした場合の話。
ここでは自宅でもできる煮沸殺菌についてご説明します。しかし、もし販売用のピクルスを考えている場合は必ずご自身で検査機関に細菌数検査を出して検証をしてください。
あくまでここは一般の方にご自宅でピクルス作りを楽しむ為の作り方を教える場であり、この方法で試したからといって商用の賞味期限を保証するものにはなりません。大手の取引先様と販売契約を結ぶ場合は必ず賞味期限の科学的根拠となる書類を提出しなければならないのでそこはご自身で責任をもって検証して下さい。
もくじ
1.細菌について
1-1.野菜と細菌
ピクルスの保存方法の話の前にまず細菌の知識を勉強する必要があります。野菜のまわりには様々な細菌が付着しています。
それはとれたての新鮮な野菜であろうが古いものであろうが必ず付着しています。一般生菌数が10万個を越えることは良くある事です。
一般生菌数とは,標準寒天培地を用いて,好気的な条件下で35±1℃,48±3時間の培養で発育した中温性好気性菌数のことを示し,食品の微生物汚染の程度を示す代表的な指標です。食品の菌数(生菌数)というと,一般生菌数のことを示します。(出典:広島県食品工業技術センター)
だからと言ってそれがすぐに食中毒に直結するかというとそういう訳ではありません。
一般的な目安として、生で食べるものは、1gあたり生菌数10万個以下であれば衛生的と判断されています。加熱して食べる冷凍食品であれば1gあたり生菌数300万個以下で食品衛生法の基準を満たしているのです。
この世にあるものにはほぼ全て細菌はついています。食べ物にかぎらず身の回りにあるお皿や瓶、服や雑誌、空気中にも人間の皮膚に至っては1兆個も存在しているそうです。
もしその全てが人体に影響を与えてしまっていたら普通の生活なんて送る事はできませんよね。
つまり私たちは常に何かしらの細菌がついたものは口にしているのです。なのに食中毒は起きない。何故か?それは細菌の種類と数に問題があるのです。
1-2.食中毒菌
食中毒は主に微生物、特に細菌と細菌から出される毒素が原因で起こります。
食中毒は食品衛生上問題となる特定の病原微生物が食品中で増殖、または毒素を生産しそれを食べた人にその微生物特有の症状をおこすものです。
食品は外見上、著しい変化を伴わないことが多いので、臭いや見かけで判断することは難しいのです。ここでは主な食中毒菌の一覧をざっと紹介します。
〈サルモネラ菌〉
自然界に広く分布し、家畜・ペットも菌を保有している。感染から半日から2日後に吐き気や腹痛38℃前後の発熱と下痢を繰り返す。症状は1~4日で回復。
予防方法 食肉や卵は十分加熱する調理器具を良く洗い、殺菌する。ペットに触れた後は手洗をする
〈腸炎ビブリオ〉
海水・海中の泥に潜み、夏に集中発生する。感染から8~24時間以内に発症。激しい腹痛と下痢が続き、脱水症状を起こす抗生物質の投与で2~3日で回復。
予防方法 調理の際は真水でよく洗う調理器具を良く洗い、殺菌する魚介類はできるだけ加熱して食べる
〈出血性大腸菌O157〉
感染から2~10日で発症激しい腹痛・下痢が続き血便が出る尿毒症になりケイレンや意識障害をひきおこす。
予防方法 食肉を扱った調理器具は熱湯殺菌する食材は良く洗い、十分加熱する手洗を十分に行う
〈黄色ブドウ球菌〉
自然界に広く分布し、人の皮膚やのどなどにも生息。感染から3時間以内に発症。吐き気や下痢をもよおし、ほぼ24時間以内に回復。
予防方法 手に傷や荒れがある人は調理をしない。調理器具を良く洗い、殺菌する。室温で長期保存をしない
〈カンピロバクター菌〉
牛や鶏などの腸におり、食品や飲料水を通して感染する。感染から発症まで2~7日かかる。発熱・めまい・筋肉痛がおこり、次に吐き気・下痢になる。数時間~2日で回復。
予防方法 食肉は十分加熱する。調理器具を良く洗い、殺菌する。手洗を十分に行う
〈ボツリヌス菌〉
缶詰・真空パックなどの酸素が含まれない食品中で増殖。熱や消毒薬にも強く、致死率も高い。感染から8~36時間後に発症。発熱はなく、吐き気・便秘・脱力感・めまいがおこる。
予防方法 pHや食塩などを添加し菌の増殖を抑える。できる限り十分な加熱処理をする。保存中にバター臭のするものは廃棄する
〈ノロウイルス〉
少量で感染し、発症率が非常に高い感染力が非常に強く、人の手指などを介して人から人へ感染する。感染から1~2日で発症。吐き気・下痢・腹痛を引き起こす。38℃前後の発熱と脱水症状をおこす場合もある。
予防方法 手洗を十分に行う。調理器具を良く洗い、殺菌する。2枚貝の生食を避ける
(出典:https://www.e-clover-y.com/syokutyudoku_kin.html)
1-3.腐敗菌
食品が微生物の働きによって味やにおい、質感、外観などが変化していく現象を腐敗と呼びます。
このような変化が現れるためには普通は食品1g当たり107~108程度の菌数が必要と言われています。
一般に腐敗した食品を食べても下痢、嘔吐など特定の症状はみられません。
ピクルスを長期保存する場合もきちんとした処理を施さなければ腐敗や細菌は容易に発生します。
2.お酢の静菌効果(出典:エフシージー総合研究所)
ピクルスはお酢の効果を利用した保存食です。ここでは僕も参考にしたエフシージー総合研究所(以降FCG)さんの記事をもとお酢の静菌効果について書こうと思います。
FCGが行った検証ではお酢の殺菌効果を調べる為に水の中に黄色ブドウ球菌を混ぜて、そのまま放置したものとお酢をいれて放置したものを比較実験しています。
結果はお酢を加えても菌数はほとんど変わらないというものでした。つまりお酢を加えても、細菌を殺すことは難しいようです。
次は酢飯について検証しています。普通のご飯と酢飯の細菌数を24時間後に比較しています。
調理直後はご飯と酢飯の細菌数に大きな差はありません。しかし、24時間後では、ご飯は多数の細菌が増殖していたのに対して、酢飯では微増した程度で、普通のご飯に比べ細菌数を10万分の1に抑えていました。
つまり、お酢の効果で優れているのは「殺菌」ではなく、細菌の増殖を抑える「静菌」であると結論づけています。
3.お酢の抗菌効果(出典:ミツカン)
さて、それではそのお酢の効果を最大限に活かすにはどうすればいいのでしょうか?ここはミツカンさんのデータを参考にしました。
3-1.お酢のはたらき-主要食中毒菌6種に対する効果
ミツカングループでは大学などと共同研究を行い、以下のお酢の抗菌効果の確認をしています。
- (1)酸度が高いほど強まる。
- (2)食塩と併用すると強まる。
- (3)温度が高いほど強まる。
そして、病原性大腸菌O157や腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など主要食中毒原因菌に対する抗菌効果が確認されており、お酢がこれら食中毒に有効であることがわかっています。
4.長期保存する為のピクルスの殺菌方法
当店では様々な殺菌方法を検証しました。ここではその方法を公開します。
しかし、これは当工場で有効だった方法で、全ての環境下での有効性を保証するものではございませんのでご注意ください。
ただ、この方法は一般家庭で召し上がる程度の物であれば十分通用すると思うので是非試してみて下さい。
4-1.野菜の煮沸殺菌
萩野菜ピクルスではピクルスを長期保存させる為に野菜は全て一度湯煎にかけています。
野菜に付着している細菌は9割以上が表面に、僅かですが中身にも生存しています。
これらを殺菌する為に野菜の種類に応じて湯で時間を設定しています。あるデータによると20秒間で90%、1分以上であれば99%殺菌できるそうです。
なので、まずは茹でて熱を通し殺菌処理をします。その後、空気中の落下菌を防ぐ為にトレイなどに野菜をいれてラップをします。
野菜ごとの湯で時間は「ゼロから始める絶対失敗しないピクルスのレシピ」を参考にしてください。
4-1-1.煮沸殺菌手順
1.野菜を煮沸殺菌する
沸騰したお湯に野菜を入れると大体20℃ほど温度が下がります。その状態から98℃位まで温度が上がったら5分煮沸します。
萩野菜ピクルスでは一度に作る量が多いので合計20分くらいかかりますが、一般家庭で作る場合は量もそこまで多くないと思うので長くても10分程度で良いと思います。
ここがポイント! あまり長く煮沸してしまうと野菜の食感が台無しになってしまうので、煮沸しすぎない様にしてください。
2.トレイなどに均一に並べる
平らなトレイなどに均一になる様に野菜を広げます。これは野菜の温度をなるべく早く下げる為です。
一般的な細菌は30℃〜40℃の状況下で急激に繁殖します。なので、すぐに調理しない場合はラップをして直ぐに冷蔵庫に保管してください。
ボウルに移しても構いませんが、その場合中心部の野菜の温度が下がりにくいので粗熱を取って移すようにしましょう。
〈一般的な細菌の基礎知識〉 ・繁殖温度帯は30度〜40度。細菌が最も繁殖するので早く冷ます。 ・0度以下、60度以上では殆ど繁殖しない。 ・低温細菌など低温に強い細菌も、-10℃以下ではほとんど増殖しなくなる ・水が無いと繁殖できない。
細菌は空気中にも存在しており、それらが落ちてきて野菜に付着します。その菌を落下菌と呼びます。落下菌を防ぐ為に素早くラップにかけます。
4.冷蔵庫にいれる
食中毒細菌の多くは中温細菌と呼ばれ10℃以下では増殖しにくくなります。その為、直ぐに調理をしない場合は早く冷蔵に入れて細菌の繁殖を防ぎましょう。
4-2.瓶の煮沸殺菌
ピクルスを瓶詰めした後、その瓶ごと煮沸殺菌します。これは瓶詰めする過程で落下菌が瓶の中に入っていたり、野菜の中に残っている菌を殺菌する為です。
下の画像は煮沸した時に瓶の中のピクルス液と外のお湯との差を調べた時のメモです。
汚い字で申し訳ないのですが、簡単に言うと瓶の中のピクルス液の温度と外のお湯の温度は必ず10℃の差があるということでした。
つまり瓶の中は90℃まで加熱出来るということなので、当店ではお湯の温度が98℃以上になったらそこから10分煮沸殺菌をしています。
4-2.瓶の脱気
最後の工程です。瓶の内部を真空に近い状態にする事で細菌の繁殖を防ぎます。瓶を煮沸すると中の空気が加熱され膨張した状態になり内圧が上昇します。その空気を逃がして真空に近い状態にする方法が「脱気」です。
〈脱気の方法〉
- 煮沸した瓶をお湯から取り出し5分冷ます
- 瓶が熱いので手袋などをしてキャップやフタを少し緩ませ、「シュッ」と空気が抜ける音がしたらスグに閉める。時間にして約0.5秒程度。
- 脱気の際ピクルス液が水蒸気となって瓶に付着しているので拭き取る。
煮沸後すぐに脱気をしてしまうと、空気と供にピクルス液が飛び出すので必ず冷まして下さい。冷ます時は冷蔵庫には入れないで下さい。温度が下がりすぎると内圧が下がり脱気が出来なくなります。
5.まとめ
以下5点がピクルスを保存するためのまとめです。
- 野菜を煮沸する(10分以内)
- 野菜をトレイに広げラップをかける
- すぐに調理をしない場合は冷蔵庫へいれる
- 瓶を煮沸する(98℃で10分以上)
- 脱気をする
下のプリントは萩野菜ピクルスの日持検査をある機関に依頼した時の検査結果です。
萩野菜ピクルスは常温保存をするつもりだったので、あえて細菌が最も繁殖しやすい夏を想定して35℃の状況下でピクルスを4ヶ月間検査しました。
これは1ヶ月目の細菌数の結果ですが陰性となっています。賞味期限を4ヶ月に設定したい場合、実際に4ヶ月保存して検査をしなければなりません。
なので検査結果がでるまで販売が出来ないので販売までにもの凄い時間がかかるんです。
以下の3つが4ヶ月後の検査結果です。
和風、洋風、カレー味のピクルスを検査に出したのですが全て陰性でした。
検査員の方に聞くと、「4ヶ月経過してこの細菌数であれば恐らくこれ以上細菌が増えるということはまずあり得ないので1年以上は日持ちはするでしょう」との事でした。
殺菌に有効なのはとにかく加熱をする事です。上に示した行程をきちんと行えばご自宅でもこのような長期保存可能なピクルスが作れるので、手間をおしまず挑戦してみてください。
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